慟哭秘話 あの時、実は幕の裏で…?
たくさんのお客様にご好評いただいた『慟哭は時を越えて』公演、実はそのウラでは様々な珍事件がありました。今だから語れる『慟哭』秘話です!■「いつもより舞台が大きく見えました」編
初めて稽古場に来た人は、舞台の狭さに驚きます。「こんなところでどうやるのか」と思った人も少なくないはず。もちろん、そこが舞台装置と照明の腕の見せ所。終演後、「舞台が広く感じた」と言っていただければ、深夜・明け方まで苦労したかいがあったというもの。
しかし、今回の舞台には、ある「ウラ」がありました…
役者の立ち稽古が始まるのに合わせて、装置チーフの相馬とともに、深夜集まった小人たちがトンテン・カンテン作ったものです。しかし翌日…
正太「うおっ、すげー、舞台できてるー」
ゆうみ「ほんとだー。わあー(舞台を走り回る)。なんだか、いつもより広く感じるねー」
正太「そうだなあ」
すばる「…っていうか、ほんとに広くない?」
ゆうみ・正太「え?」
そして、なんと計ってみたら予定よりも30センチほど舞台が前にせり出していたのです!寸法違いに相馬・大ショック!!
今にも舞台の分解・再構築に入りそうな蒼白の相馬を押しとどめて、演出が出した結論は「このまま行く」。
置けるイスの数を再計算し、座椅子を買い足し、なんとか予定通りの客席数を維持。
結果的に、多くの役者が動き回る今回の芝居にぴったりの舞台となりました!
そして当日、お客様のアンケートに書かれていた言葉は
「いつもより舞台が広く見えました」。
…お客様の目は確かです!
■「幕の裏で靴下落としたのだーれ?」編
それは本番3日前、リハーサルの日のこと。初めて、衣裳・メイク・髪型をつけて舞台に臨む役者、そして照明・音響も完成度の高いもので演技と合わせていく、大切な日だ。
幻想的な明かりの中、オープニングが始まろうとしたその瞬間…
すばる「すいませーん! エリカいません!」
演出「え?」
なんと、スタンバイしているはずの位置にエリカがいない。
代わりに楽屋から聞こえてくるのは…
エリカ「ほえ? うち、ここにいるよー」
みゆき「え、エリカ…? 出番だよ!!」
エリカ「え? だってまだ明治じゃないじゃん」
なんと、数日前に演出が変わり、つけかわったオープニングのことをすっかり忘れ、髪型を作っていたエリカ。そしてもう一人…
演出「あーっ!」
全員「へ?」
演出「そうか!! オープニング付け替えたんだ!」
みゆき「…しのちゃん?」
エリカ「私、しのぶさんにまだ髪やってていいよって言われたんだけど…」
演出「…ごめんなさぃ…忘れてました…」
全員「……」
結局エリカは慌ててスタンバイし、無事にリハーサルは決行されたが、その日、助演出・正太にいつもと違う仕事が回ってきた。
幕の裏に落ちていた、慌てて脱いだらしき片方の靴下の落とし主を探すという仕事が…
■「照明パニック」編
今回が照明オペレーター2回目だったあすか。前回より3倍も明かりの変化が多く、難しくなった『慟哭』の照明に、いつもニコニコしながら取り組んでいました。
しかし本番初日の朝…
あすか「しのぶさん…」
しのぶ「ん? どうした?」
あすか「あの…客電がつかないの…」
しのぶ「え?」
あすかは、泣きそうなのを必死にこらえている。
慌てて見に行くと、多忙な響があすかに照明機材の電源の入れ方を一部教え忘れたまま仕事に行ってしまったことが判明!
他に仕込まれた照明の中にも、いくら操作しても点かないシーンがある。
新しく入れたばかりの機材だったので、確実にわかるのは響しかいなかったのだ。
これでは予定していたリハーサルができない。
というか、本番もできないかもしれない。
不安にふるえるあすかに、しのぶは言った。
しのぶ「例え照明が点かなくともうちの役者達は素舞台で観せられるから、大丈夫だよ」
その時初めて、あすかの瞳に大粒の涙が湧き出てきた。
すばる「ねえ、しのちゃん。うちは電源これだと思うんだけど…」
しのぶ「うん、私もそう思う。けど、もし間違ってデータがぶっ飛んだら…」
検討はついても確実じゃない限りミスは許されない。
そこで照明家Iさんに連絡を取ることに。
すると電話じゃよくわからないから、と稽古場に駆けつけてくれました!
Iさん「はい、これですよ。ポチ」
Iさんの指がスイッチを入れた瞬間、稽古場が一気に明るくなる!
湧き上がる歓声。
だけど明るくなったのは、照明のせいだけじゃないのです。
みんなの心を照らす、あすかの笑顔が戻ってきたから。
劇団一揆を殺すにゃ、刀はいらぬ。
あすかの涙の五粒もあればいいのだ。
■「のぞき王?!輝」編
本番前、役者の緊張のほぐし方は人さまざまである。楽屋で若手役者をいじる、キイチ。
何度も髪型を見直す、碧や落合。
貧乏ゆすりの絶えない、正太。
そんな中、客席に入ってくるお客さんを見ないと、どうにも落ち着かない役者が一人いた。
輝である。
そこにどっかり陣取れば、ちょうどいい位置に空いている穴から、客席の全貌を見渡すことができるのだ。
輝「ニヤニヤ」
輝「ニヤニヤ」
輝「ニヤニヤ」
そして満足した頃、ひっそりと楽屋へ帰る。
そんな輝の行動に気づいたゆうみは、いつも輝より先にセンター幕の裏を取ろうとするが、とうとうそれは叶わなかった。
気がついたとき、すでに輝は楽屋にいない。
台本をひらりとめくっている間があれば、もう出遅れるのだ。
もしかしたらあなたも見られていたかもしれない。「これだけの人が俺を見る…!」と気合を入れていた輝のまなざしに。