「かわいそうな ぞう」舞台写真&ストーリー

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太平洋戦争真っ只中の東京。上野動物園には三匹のゾウがいた。

「おはよう!トンキー、ワンリー、ジョン。」
ゾウの飼育員のおじさんが声をかける。

ゾウはエサを長い鼻で器用に受け取る。それを見た子供達は大喜び。



かつてゾウの飼育員として働いていた老人が、
上野動物園にあった過去を語り始める。


いつも通り掃除をしている飼育員達に、
「この動物園にいる全ての猛獣を殺処分せよ。」と、政府から通達が来た事を、
園長から伝えられる。

日本は戦争の真っ只中。
空襲を受け、動物が逃げ出す事を
防ぐためであった。





「さあ、たくさん食べろよ・・・。これが、最後のごちそうになるかもしれないからな・・・。」
ゾウたちは美味しそうにエサを食べている。一人胸を痛めるおじさん。



最初に殺す事になったのは気の荒いジョン。
エサのリンゴに毒を混ぜて与えた。
眠るように死んでくれれば、と願うおじさん。
しかし・・・

「ジョン、お前・・毒が分かるのか?」


ジョンの体に毒を注射しようと試みるも失敗し、最後の手段に出る事となる。
それは、エサをやらないこと。
ジョンはみるみる痩せ細っていく。

檻からはジョンの悲しげな鳴き声が聞こえる。

そして十三日目、ジョンは死んでしまう。
「ジョン・・・すまん・・・。」



ある日、おじさんの元に朗報が届く。仙台の動物園から、トンキーとワンリーを引き受ける、との電報だった。

「お願いします、園長。どうかあの二頭だけでも助けてください!手続きをお願いします!どうか!」
「・・・よし、わかった!」

二頭を助けられる事を喜ぶ飼育員達。
「いやあ、良かった。良かったなあ!」
そこに一人の飼育員が現れ、声を上げる。
「良かったな。ゾウは助かって、
こっちはもう何頭も殺したけどさ。」


しかし、悪い事が起きる。仙台の街にも空襲が来た、という知らせが届いたのだ。
これで、残った二頭のゾウを仙台に連れていく、という事は出来なくなった。
追い打ちをかけるように、国から「ゾウを早く殺せ」と命令が下る。





「だめなんだよ、もう。どんなに芸をしてくれても、お前たちにエサをやる事は出来ないんだ。
・・・頼む、もうどうか、何もしないでくれ・・・!」



そこに一人の飼育員がゾウの檻に水をぶちまける。
「さあ、飲め!」

その様子を見たおじさんも無我夢中でエサをゾウに食べさせた。
「食え、食え!早く!トンキー、ワンリー!」
「いいんだ、これでいいんだ!こんな・・むごいこと、あっていいもんか!」



一度だけ与えたエサでなんとしても生き延びてほしい。
しかし戦争は皮肉にも激しくなり、国の命令に従うしかなくなる。


とうとうワンリーも死んでしまう。残るのはトンキーだけ。


「トンキー、一人ぼっちになって寂しいだろうな。
せめて、ここにいるからな。」

そこに人間の姿をしたトンキーが現れる。


ゾウたちの故郷タイの話、初めて動物園に来た時の事を、
おじさんとトンキーが楽しそうに話す。
「おじさん・・ありがとう。
私をおじさんの子供みたいに可愛がってくれて。」



「見て!おじさん!風だ、気持ちいい!
この風に乗ってタイに帰れたら・・・。」

「ばんざーい!」
「ばんざーい!」


辺りを見回すと、死んでしまったトンキーが横たわっている。

「トンキー・・・。お前、万歳をしたまま・・・。」


その時空襲警報、戦闘機が近づいてくる。遠くから爆撃の音。
「・・やめろ。やめてくれ。
戦争をやめてくれ・・・!!」


「トンキーは最後に、檻に鼻をかけ、万歳の芸当をしたまま死んでいました。
戦争が終わった時、動物たちをあんな目に遭わせたくないと、
お墓を立てました。動物園が動物を殺す事はあってはならない。
このお話が多くの人の心に残り、二度とあんな事が起きませんように・・・。」




時代は現代。上野動物園は今日もゾウを観に来る子供達で賑わっている・・・。


参考文献 ・金の星社 おはなしノンフィクション絵本 「かわいそうな ぞう」より
               ・本山節弥脚本 「そして、トンキーも死んだ」

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