『星が降る瞬間』公演写真&ストーリー

プロローグ

女性週刊誌の記者、桐柳時子。記者仲間で友人である織田広の家で編集長の愚痴をこぼす。
そこにあるのは幸福な家庭の姿……しかし、広が取材相手の政治家秘書と、不倫の果てに心中したという知らせが届く。

「ちょっと待ちなさいよ、織田広くん。君が新聞記者になれたのは一体誰のおかげかね?」
「静江に決まってるだろ。」
「ケッ!夫婦でベタベタしやがって!別居中のあたしにはきついジョークだね。
広!あんたが学生結婚して子供できたからって、忙しい時に卒論手伝ってやったのは、いったい、どこのどなた様?」

「大事なことは、間違うまいとして事実から目を背けないこと。…分かってんだろ?自分のやりたいことをさ。」
「…そうだ。」

「正義の新聞記者、愛欲の果ての心中。」
「大新聞社の敏腕記者、政治家の元秘書と心中!」
「吹き荒れる非難!報道業界の表と裏!」

一幕一場(広の葬式)

家族と時子の胸に広がる、信じられないという思い。そこへ生前の広から時子の元に手紙とパスワード付のディスクが届く。
「桐柳時子様。私は命を狙われています。…パスワードを知っているのは、娘のみずきです。」



   
   「あたし、何も知らなくて…。
   心中だって、そんなこと言われても、
   その女の人のことも何も分からなくて…。
   私、何がなんだか…。」
   「静江さん!…」
「お父さんはそんなことしません!」
「みずきちゃん!」

一幕二場(編集室)

「織田が最近追っていた政治家っていうのがなんと、今をときめく、あの石原義一。」
「えっ!」
「織田と一緒に心中したと言われてる女は、その石原の元秘書って聞けば、におわない?」
「…静江さん、これ、広から…」
「うそ…本当に…?」
「ね、ねぇ、亡くなる直前に投函したのかしら。」
「あの世からって言いたいの?」

一幕三場(取材もよう)

時子は友人の死の真相を暴くために、取材目的を偽った調査を始める。時には危険な目に遭いながらも…

「一秘書が出入りする方とどのような関係にあるか、石原がいちいち知ることではございませんから。」
「よかった。これで何の心配もなく記事を出せます。」
「失礼ですが、どんな内容で。」
「友達が」
「父親の友達が書いた」
「時子が」
「やめて…!」
「ディスクはどこだ…!」
「し、知らない!」
「知らないハズはない、預かっただろ?死んだ男から。」

 

二幕一場(編集室)

時子の書いた記事に衝撃を受け、自殺を図るみずき。娘を守る静江の怒りは、時子に向けられた…

「今やめたら、全てが水の泡だよ。広が死ぬ瀬戸際、必死に送ったこの手紙だって何にもならなくなっちゃうよ、それでもいいの?!」
「死んだ人間より生きてる人間の方があたしには大切なの!」
「静江さん…」
「みずきが助かった時、あたしがどれだけ嬉しかったか…。あなたには分からない、子供を持つ母親の気持ちは。」
「あたし、何を間違ったんだろう?」
「……大事なことは間違わないことじゃないよ。」
「ん?」
「……間違うまいとして、事実から目を背けないことじゃないのか?」
「間違うまいとして…。」

二幕二場(取材もよう)

事件の背後に見え隠れする大物政治家の影。その中で広の残した「大切なもの」を解き明かしていく時子・山崎・小池、そしてみずき…

「あんな奴と…関わらなければ、あたし、普通に…」
「おトキちゃん、救急車だ!お願いします!こっちです!」


「…でも、あたし、ぶつかる相手がどれだけ巨大なものか知りもしなかったんです。まるで、アリが象を見ても何だか分からないみたいに。」
「アリだって、象を倒すこともある。」
「そうですね、集まれば。」


二幕三場(みずきの病院〜編集室)

「みずきちゃ…」
「触んないで!」
「…!」
「…汚いよ、そうやって口ばっかりいいこと言って…。もう、あんな風にお父さんのこと悪く書いたじゃない!」
「じゃ、パスワードが分かれば…。」
「広が殺された理由が分かる。」
「殺された理由…。」
「そうだよ、みずきちゃん。広が殺されてまで守ったものなの。」
「…それが、お父さんの“星の瞬間”だったのかな。」

「みずきへ
…何度も言ったが、ツヴァイクの本にある、あの言葉を思い出す。人の一生には何を犠牲にしても悔いはないと思う時がある。その時を、人生における“星の瞬間”と言うのだ、と…お前もいつか、お前なりの星の瞬間を持ってほしい。それがお父さんの最後の願いだ。」

エピローグ

広の墓前で、時子はたまたまお参りに来た静江とみずきに会う。みずきは将来の夢は新聞記者だと語った…



「…広…、カンパイ!」

end.
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