『山神』とは?

作者・橋田志乃舞が語る『山神』への想い

 1981年10月末、当時15歳だった私は、夜、テレビのニュースであまりにも悲惨な光景を見つめていました。北炭夕張炭鉱ガス事故の惨事についてのニュースでした。坑内火災が発生し、水を入れることが決定し、炭坑マンの家族が夜も眠れずにいるという内容だったと記憶しています。「どうして水を入れるの?」と私。「石炭が燃えて使い物にならなくなるのをふせぐためだ」と怒ったように父。「だってまだ中に人がいるんだよね?」と続けて問う私に、父母は黙って何も答えませんでした。あの時、事故の内容は詳しくわからなかったけれど、いま思えばおとなの社会の汚い裏側を両親は私に教えたくなかったのかもしれません。
 2000年8月現在―北海道では6人に1人が働けなくて困っているというのに、銀行やデパートだけしか助けようとしない政府の汚さがニュースで流れています。劇団内にも、就職できず短期間のアルバイトで食いつないでいる団員がたくさんいます。それでも明るく稽古場に通ってくるみんなを見ていると胸の痛みを抑えることができません。
 人間らしく働くことは、すべての人が健康で文化的な生活をするために必要です。それを国が保障することは先進国として、あまりにも当然です。みんなが困っているときに動く政府こそ、本当に私たちに必要な政府だと思うのです。当たりまえのことが許されないこの国に、希望も見出せず、生きる意欲も持てない10代の人々の感覚を私は単純に非難することはできません。今回のお話でも、漠然とした怒りをもてあます、せつない青春群像を描いています。

「山神」のあらすじ

 「山神」は、閉山された炭鉱町に、若い女性が訪れるところから始まります。以前、その町の中学校に通っていたというその女性は、偶然知り合った男性に、病気で働けない悩みを語るうちに、だれにも言うことのできなかった学生時代を明かすことになります。楽しかった中学校の仲間たち―あの炭坑事故以来、バラバラに―その仲間たちは今どうしているのか…。
 だれもが胸に抱く甘酸っぱい初恋の思い出と10代のせつない友情が、ヤマの街を背景に舞台いっぱいにくりひろげられます。ヤマの人々の悲しさと優しさを精一杯伝えたいと思います。

 どうぞみなさま、都会の生活の疲れを癒し、明日へのエネルギーを得るために私どもの舞台におこしくださいませ。心からお待ちしております。

夕張市の炭鉱史

夕張では108年前の最初の採炭から10年前まで計8回の大きな事故があり、約1000人の炭鉱労働者が亡くなっている。

− 明   治 −

●明治22年(1889)            
・11月:北海道炭鉱鉄道会社創立(北炭の前身)
●明治23年(1890)
・4月:夕張炭山開坑着手。
●明治25年(1892)
・3月:夕張炭山採炭開始。
●明治30年(1897)
・新夕張炭山開坑に着手する。
●明治41年(1908)
・新夕張五番坑でガス爆発、死者93名。

− 大   正 −

●大正3年(1914)
・11月:若鍋第二斜坑でガス爆発、死者423 名。
●大正9年(1920)
・10月:第一回国勢調査施行。
 (人口51,064人、世帯10,840)

− 昭   和 −

●昭和13年(1938)
・10月:夕張天竜坑でガス爆発、死者161 名。
●昭和35年(1960)
・2月:夕張第二坑爆発、死者42名。
●昭和40年(1965)            
・2月:夕張第一鉱坑内爆発、死者62名。
●昭和41年(1966)            
・10月:三菱鉱業南大夕張鉱が新鉱開削に着手。
●昭和43年(1968)
・7月:北炭平和鉱坑内火災、死者31名。
●昭和45年(1970)
・8月:三菱南大夕張炭鉱操業開始。
・10月:北炭夕張新鉱開発着工。
●昭和48年(1973)
・5月:三菱大夕張炭鉱閉山。
●昭和50年(1975)
・3月:北炭平和炭鉱閉山。
・6月:北炭夕張新炭鉱営業出炭開始。
●昭和52年(1977)
・10月:北炭夕張新第2炭鉱閉山。
●昭和53年(1978)
・7月:石炭の歴史村建設工事着工。
●昭和55年(1980)
・3月:北炭清水沢炭鉱閉山。
・7月:石炭博物館開館。
●昭和56年(1981)
・10月:北炭夕張新炭鉱ガス突出事故発生死者93名。
●昭和57年(1982)
・10月:北炭夕張新炭鉱閉山。
●昭和60年(1985)
・5月:三菱南大夕張炭鉱でガス爆発事故発生、死者62名。
●昭和62年(1987)
・10月:北炭真谷地炭鉱閉山。

− 平   成 −

●平成2年(1990)
・3月:三菱南大夕張炭鉱閉山。
●平成7年(1995)
・10月:平成7年国勢調査実施。(7,593世帯・17,110人)
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